【ネタバレ注意】『ジャングル大帝』の中の人間(4)アルベルト・コッホ

アルベルト・コッホはアデン時代のケンイチやメリーの同級生。本の虫で博識な子供だった。A国のコロンビア大学で動物学を学んだ後、アムポロチャ大学のプラス教授のもとで月光石について研究、磁力線の作用で莫大なエネルギーを出すことを発見する。A国探検隊に加わってアフリカへやってくるが、レオたちの動物王国の豊かさに魅了され、月光石探索をやめ、この地に留まって動物学の研究を続けることを選んだ。『ジャングル大帝』の主な登場人物のうち唯一、ストーリーの終了後も物語の中に生きて留まった、つまり、ジャングルの動物たちと共存した人間と言える。比較的目立たない脇役と思われていた人物が、気づくと最も重要な役割を演じている、っていうアレかもしれない。

アルベルトとレオの再会は、月光石探索の序盤。A国探検隊がレオたちの王国に差しかかった頃、ジャングルの動物たちの間では死斑病が流行し、レオの王城でも妻のライヤが死に、娘のルッキオも瀕死の状況だった。探検隊は偶然王城と病獣たちを見つけ、アルベルトは隊員を指揮して動物たちの治療を行う。そこで、レオとアルベルトが興味深い会話を交わしている(以下、一部省略しているが引用)。

レオ「この国へ来たらつまんない好奇心なんか

   やめたまえ

   きみたちとわれわれは対等なんだ

   対等で話しをつけよう。」

アルベルト(病気に罹ったルッキオを見て)

  「ものは相談だがもしなおしてあげれば

   きみはぼくの質問にこたえてくれる

   かい。」

レオ「なおるもんか

   できるだけのことはした…。」

アルベルト「できるだけ?

  フフン、ワラに上へねかせて

  ただ見守るだけができるだけのことか?」

娘を助けることができたら何でも言うことをきくとレオは約束する。アルベルトはレオに「いっとくが絶対口だしをするなよ。」と釘を刺し、ルッキオに血清の注射を打つ。痙攣を起こす娘を見てレオは取り乱し、思わずアルベルトの手から注射器を叩き落とし飛びかかろうとする。そのときアルベルトはレオに向かって大喝する。

「バカーッ!!

 きみは人間の世界でそだったのだろう

 それなのに人間の腕を信じないのか

 それほどきみはぼくたちを

 見そこなってるのかーっ!!」

ムーン山探検も終わり、一人生還して日本へ帰ったヒゲオヤジは、数年後のある日アルベルトから手紙を受け取る。ルネとルッキオが生長して成獣となったこと、ムーン山についてはその後確かめた者もなく、再び伝説の山になりつつあることをアルベルトは伝えてきた。

ヒゲオヤジはひとりごちる。

「ムーン山か……。わしたちはアフリカに勝ったのだろうか

 …それともそれは人間の思いあがりで……。

 アフリカは生きとし生けるものすべてを大自然のふところの中に吸収して……

 いどむ者をゆうゆうと見おろしているのではないだろうか……。」